まいすたまっくいずふるおぶゆあらぶ、だヨ

「作り過ぎって、君達はいつも食べてばかりいるクセに、何だよ。」とアメリカ人。「それとも私の料理がダメだったのか?どっちだ?」どっちって…。そー言いつつ、彼は大きな豆の袋を取り出しボウルに空け、お湯に浸し始める。昨夜はディナーが遅すぎたので、友人宅に泊まった。その翌日の昼前、改めて昨晩の料理の残量に驚いて「作り過ぎ」と言っちゃったのだ。「だってこンなにイッパイ…。」「また食べられるでしょ。イヤ?」友人が既にキャセロールへ移していた大量のギリシャ風鶏煮込みを、冷蔵庫に片づける。
「そう言えば、日本のスターバックスからチョコレート・マフィンが消えたって知ってる?」とアメリカ人。「酷いよね。あれが楽しみだったのに。抗議のメール出そうかな。ウェブサイトとかある?」抗議…本気でヤリかねン。以前も何か抗議文書をどっかに送ってたよーな。そンな彼が、今日書いてた文書は「被害状況報告」。自宅を管理会社の怠慢で水浸しにされたので、損害賠償を請求するためだ。去年も何か、そーゆーのなかったっけ。「あれとこれとは別件。酷いんだから。」と水浸しに遭った自宅写真を見せる。あー、こりゃ確かに酷い。
「で、今日のディナーはナニ作るの?」と訊いてみた。「ビルマ風料理だよ。」へー。「あンまり大量に作らナイでネ。」「何でそんなこと言うのか判んない。」とニヤニヤ。「東京は良い街だよね、NYじゃ、あんなにいろんな国の食材揃えられないよ。」そーかも知れナイ。
夜、9時を過ぎても彼が戻って来ないと友人の電話。作り過ぎって言ったからスネてンのかナ。約1時間後。友人宅に着くと、アメリカ人は料理の真っ最中。3パック1000円の豚肉ブロックが見える。…やっぱそーキたか。「今日はステキ・ライスだって。」と友人。ステキ・ライス…スティッキー・ライスのコトか。餅米を炊飯器で炊いてるという。「こんなことするの初めてだから、どうなるのか不安なんだけど。」と友人は炊き具合の心配をする。
高田馬場ビルマ雑貨店があってね、今日はそこで買ったのを使うんだ。」とアメリカ人。良くご存知で。粉末状にされた味噌を水で溶いて使うらしい。「この料理はね、豚味噌っていうんだ。」そ、そのまンまか。半日間、水に浸けた豆を炊く。「この銅の鍋、良いね。焦がしちゃったけど。」オイオイ。
ディナーを喰い終わった頃、もー食べないのかとアメリカ人が訊くので、思い切りジャパニーズな発音のイングリッシュでこー言った。
「まいすたまっくいずふるおぶゆあらぶ、だヨ。」
アメリカ人、判ってナイ。判るワケがナイ。友人はクスクスと笑う。もう一度言ってみる。ナニが起こってるのか判らナイらしい。更に続けて繰り返す。
「ワカラナーイ。ナニ?」と彼が日本語で訊くので、もう一度。
「まいすたまっくいずふるおぶゆあらぶ、だヨ。」
MY STOMACH IS FULL OF YOUR LOVE。彼は首をすくめてニヤッとする。「もうすぐ生まれるの?」「うン。」